ぼうずαさんが投稿した沁ゆうき(大阪/中津)の口コミ詳細

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沁ゆうき中津(大阪メトロ)、中津(阪急)、大阪梅田(阪急)/日本料理、居酒屋、海鮮

69

  • 夜の点数:5.0

    • ¥15,000~¥19,999 / 1人
      • 料理・味 5.0
      • |サービス 4.6
      • |雰囲気 5.0
      • |CP 5.0
      • |酒・ドリンク 5.0
29回目

2025/02 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

御相伴のひととき

沁ゆうきには、季節限定・予約限定の鍋がある。私の知る限り、河豚と蟹。いずれもこの店ならではの丁寧な仕立てで、特別な時間を演出する一品だ。

この日、隣の席では河豚鍋のコースが進んでいた。向こうに座るのは、何度かこの店で顔を合わせたことのある方々。深く言葉を交わしたわけではないが、同じ空間を何度も共有していると、不思議と親しみが生まれるものだ。

やがて鍋の終盤、ふと声がかかる。「〆の雑炊、よかったらどうぞ」。ありがたく、御相伴にあずかることにした。レンゲでひと口すくえば、河豚の出汁が染み渡った雑炊の香りがふわりと立つ。口に含めば、淡く澄んだ旨みが広がり、静かに身体の芯まで染み込んでいく。この店の鍋は、ただの料理ではなく、確かな余韻を残すものなのだと実感する。

湯気の向こうに広がる、さりげない縁。次に訪れたときは、自ら鍋を予約してみようか――そんなことを考えながら、静かに盃を傾けた。

2025/03/03 更新

28回目

2025/02 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

イレギュラーズへのレギュラーメニュー

沁ゆうきに通い続けると、自然と食べる料理の幅が広がっていく。お店の方が工夫を凝らし、訪れるたびに違う味を楽しめるのが、この店の魅力だ。そのため、レギュラーメニューと呼ばれるものを、通った回数ほど食べているわけではない。

だが、誰かと一緒に訪れると、話は変わる。相手の好みや期待に応える形で、自然と定番が並ぶことが多くなる。この日も、沁ゆうきの"王道"が静かに供された。

先付の旨出汁ゼリーは、透き通った旨みが口の中でふわりと広がり、食事の始まりを穏やかに演出する。箸休めには、小蓮根の唐揚げが控えめながら確かな存在感を放つ。そして、サザエの茸焼き。サザエの深い旨みと茸の香りが重なり、仕上げのトリュフオイルが全体を包み込む。この一皿が沁ゆうきの"定番"と呼ばれる理由を、改めて思い知らされる瞬間だ。

イレギュラーな料理に心躍らせるのも楽しいが、こうして定番を味わうのもまた良い。変わらないものの中に、変わる楽しみを見つける。沁ゆうきのレギュラーメニューは、ただの定番ではなく、確かな"答え"を持つ一皿なのだ。

2025/02/24 更新

27回目

2025/02 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

皿の端に息づく季節 ~春の苦味~

沁ゆうきでは、季節ごとに添えられる野菜が変わる。決して主役を張るわけではない。だが、その存在が料理全体の印象を決定づけることもある。この時期、皿の端にさりげなく添えられるのは「菜の花」。それだけで、一皿に春の息吹が宿る。

オリーブオイルでさっと炒められた菜の花は、噛むごとに広がるほろ苦さが心地よい。焼き魚の脇に添えられたそれを口に含めば、脂ののった身と調和し、後味にきりっとした余韻を残す。苦味があるからこそ、他の旨みが際立つ。その計算されたバランスこそが、この店の真骨頂だ。

この苦味は、ただの味ではない。春の訪れを静かに告げるものだ。野菜の持つわずかなえぐみやクセを楽しむのは、大人の味覚が許すささやかな愉しみ。沁ゆうきでは、その“旬の苦味”を見事に料理に織り込み、季節の移ろいをひそやかに伝えてくれる。

次に訪れたとき、菜の花の代わりに何が添えられるのだろうか。派手ではないが、確かにそこにある変化。巡る季節とともに、新たな苦味との出会いを待ちわびるのも、この店に通う理由のひとつなのだ。

2025/02/21 更新

26回目

2025/02 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

尽きぬ工夫、満たされた皿

沁ゆうきのヘビーユーザーともなれば、メニューの流れはすでに頭に入っている。だが、それでも飽きることがないのは、この店ならではの工夫ゆえだ。私の嗜好や気分に合わせ、絶妙に料理を組み立てる。

とはいえ、店側も楽ではないだろう。「今日は何を作ろうか」と思案しながら、私を飽きさせぬ献立を考えるのは、きっと一種の挑戦になっているに違いない。そしてこの日、大将は思い切った。どうやら「考えていたものを全部出す」という選択をしたらしい。

結果、箸休めが6品並ぶこととなった。鰻の白焼きが口をほぐし、茹で時間を変えたからし菜のつぼみ菜が二皿続く。ちょこっとお造りが間を取り持ち、牡蠣フライとアジフライが食欲を煽る。仕上げは蛤の雲丹焼き。これだけの料理が次々と運ばれ、思わず笑いが漏れた。

当然ながら、これだけ味わえば満腹だ。〆の余裕は、さすがになかった。しかし、ただ満たされるだけではない。工夫を尽くした献立の妙、緩急のついた味の流れに、心まで満たされる。

メニューに困るのは、店側か、それとも私か。そんなことを考えながら、次はどんな皿が並ぶのかと、また足を運びたくなるのだった。

2025/02/19 更新

25回目

2025/02 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

寒い日の特別 ~温もりの一杯~

今シーズン一番の冷え込みかどうかはわからない。だが、夜の空気が肌を刺し、指先がかじかむほどの寒さであることは確かだった。こんな日には、最後に温かいもので〆たくなる。沁ゆうきの定番であるカレーも魅力的だが、今の気分ではない。何か、もっと体に染み渡るようなものを――。

「温かい素麺、できますか?」

ふと口にした問いに、大将は間髪を入れず答えた。「できますよ」。その即答に、期待が膨らむ。沁ゆうきのことだ、ただの素麺が出てくるはずはない。

ほどなくして供された椀の中には、「厚揚げ」が主役として鎮座し、脇には「鴨つくね」。ベースはねぎま鍋と同じはずなのに、まったく別の料理に仕上がっている。出汁をたっぷり吸った厚揚げを箸で割ると、じゅわっと広がる旨み。鴨つくねはほろりとほどけ、温かい素麺がするりと喉を通る。寒さに強張っていた体が、ゆっくりと解けていくのがわかる。

沁ゆうきの魅力は、素材の組み合わせと、その使い方の妙だ。同じ食材でも、そこにひと工夫加えるだけで、まったく違う味わいが生まれる。寒い夜だからこそ出会えた、心まで温まる一杯。その余韻に浸りながら、盃をそっと傾けた。

2025/02/07 更新

24回目

2025/01 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

箸休めに湯気が立つ日

「沁ゆうきで、おでん?」

そう思ったのは、これが初めてではない。記憶をたどれば、確かこれで二度目の登場だろうか。箸休めとしては異色の一品だが、不思議と店の雰囲気に溶け込んでいる。

この日は、箸休めのタイミングでおでんが供された。食べ放題らしいが、誰もが次々とおかわりをするわけではない。私も、じっくりと選ぶ。大根、こんにゃく、平天、そしておすすめのソーセージ。沁ゆうきらしい丁寧な仕事が施された具材が、出汁をたっぷりと含み、口の中で静かにほどけていく。

こうなると、やはり燗酒が欲しくなる。しかし、店の中の人が少ない時に頼むのは、どうにも気が引ける。だから、冷酒を合わせることにした。キリッと冷えた一杯が、おでんの温かさと対比をなし、その味わいを際立たせる。

沁ゆうきのおでんは、まだ馴染みの薄い存在だ。しかし、その一椀には確かな仕事と、店の空気に寄り添う穏やかさがある。レアなメニューに当たった日。その偶然を噛みしめながら、盃をそっと口に運んだ。

2025/01/31 更新

23回目

2025/01 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

冬の味覚を頬張る時 ~牡蠣の余韻~

牡蠣は、鴨と並んで私の最も好きな食材の一つだ。いや、蟹も鰺も捨てがたい。結局のところ、どれも魅力的で甲乙つけがたいのだが、それでも牡蠣の季節が訪れると、やはり牡蠣を食べずにはいられない。

しかし、数年前のある出来事を境に、生ガキがどうにも苦手になってしまった。かつてはあんなに好んでいたのに、今では目の前に並んでいても手が伸びない。我ながら残念ではあるが、その分、牡蠣フライを存分に楽しむようになった。衣をまとった牡蠣を噛みしめると、サクッとした食感の後に熱々の濃厚な旨みが広がる。その幸福感といったら、言葉にするのも野暮に思えるほどだ。

沁ゆうきの大将は、そんな私の嗜好をよく理解している。この季節になると、何も言わずとも牡蠣フライを出してくれる。その心遣いが心地よく、カウンターに座り、揚げたての香ばしい香りを感じるたびに「ああ、今年もこの季節がきたな」としみじみと思う。タルタルソースをたっぷりつけるもよし、そのまま牡蠣の旨みをじっくり味わうもよし。どちらにせよ、至福の時間であることに変わりはない。

今年も沁ゆうきで、牡蠣の季節が始まった。最初のひとくちを頬張りながら、冬の訪れを静かに実感する。そして、この冬もまた、牡蠣を存分に味わうことになるのだろう。

2025/01/31 更新

22回目

2025/01 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

盃の向こうに広がる景色 ~日本酒の流儀~

ここでは日本酒を頼むと、基本的には店主のおまかせとなる。何を飲みたいかを尋ねられることはほとんどない。それは決して不親切なわけではなく、むしろ信頼の証だ。この店では、その日の料理、客の表情、そして盃を重ねる速度さえ見極めながら、最適な一杯が自然と目の前に置かれる。

そんな中でも、変わらずそこにある定番がある。「石鎚 緑ラベル」と「寳剱」だ。すっきりとしながらも米の旨みを存分に感じさせ、沁ゆうきの料理と見事に調和する。酒単体で主張しすぎることなく、それでいて食事の流れを美しくつないでいく。初めてこの店を訪れた日も、何度目かの再訪でも、変わらずそこにあることが、この二銘柄の信頼を物語る。

加えて「旭菊 大地」「阿部勘」「喜久酔」といった銘柄も準定番として時折登場する。決して固定されたラインナップではなく、時には「阿部勘 金魚」や「山川光男」といった季節の酒が、さりげなく酒器に注がれることもある。そうして選ばれる一杯には、店主の美学と、沁ゆうきの時間が映り込んでいるのだ。

ここでは、日本酒は単なる飲み物ではない。料理と共に味わい、その場の空気と共に楽しむもの。沁ゆうきの盃には、いつも静かに、けれど確かに、その夜の物語が映っている。

2025/01/31 更新

21回目

2025/01 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

香る柚子 ~二つのお雑煮の物語~

年始のイベントで供されたのは、沁ゆうき特製の白みそ仕立てのお雑煮だった。白みそのほのかな甘みとまろやかさに、柚子の爽やかな香りが絡み合い、まるで一椀の中に季節の風を閉じ込めたような味わい。焼かれていない餅がつるりとした食感で喉を滑り、冷えた冬の朝に優しい温もりを運んでくれた。

数日後、今年最初の訪問でいただいたのは、すまし仕立てのお雑煮。澄み切った出汁の中に、同じく焼かれていない丸餅が静かに浮かび、上品な柚子の香りが一口目から鼻腔をくすぐる。その透明感と繊細な味わいは、沁ゆうきらしさそのもの。まるで料理そのものが言葉を超えた物語を語りかけてくるようだった。

お雑煮は、地域や家庭によって千差万別の表情を持つ料理だ。私の母が作るのは、すまし仕立てに丸餅を添えた飾り気のない一品。その素朴さが沁み入るような味を思い出しつつ、沁ゆうきのお雑煮に、また違った形の温もりを見出した。

白みそとすまし。異なる二つの味がそれぞれの個性を放ちながら、どこか共通の穏やかさで繋がっている――そんな年始の味比べ。今年も沁ゆうきの料理が、私の記憶に新たなページを刻んでくれる予感がする。

2025/01/08 更新

20回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

年の瀬 ~常連たちの宴~

年の瀬も押し迫る頃、「沁ゆうき」の最終営業日は、いつもと少し違う空気を纏う。この夜遅くなると、店のカウンターには常連たちが自然と集まるのが恒例だ。彼らが交わすのは今年一年の出来事や何気ない日常の話題。特別な料理が並ぶわけではないが、店内にはいつも以上に穏やかな温かさが満ちている。

「今年一年間、お世話になりました」
一人が大将にそう挨拶すれば、私も言葉を続ける。「転勤するから今年ほどは来られないかもしれないけど、この店に来るために帰ってくるよ」。その言葉に、大将は少し照れたように微笑みながら「そう言ってもらえると嬉しいです」と応える。店の空気がさらに柔らかくなり、笑い声が交錯する。

今年は大将が初めてお節料理に挑戦しているという話題も出た。その味わいには沁ゆうきらしい丁寧さが詰まっているのだろう。常連たちの期待も自然と膨らむ。

ここにあるのは、料理以上の魅力だ。カウンター越しに交わされる言葉と、それを包み込む穏やかな時間。常連たちの宴はこうして幕を閉じるが、この場所はきっとまた誰かを迎えるだろう。そして私も、帰ってくる日を心待ちにしている。

2024/12/31 更新

19回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.6
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

箸休めという名の主役たち

和食における「箸休め」という言葉は、一般に主菜や副菜の間に供される小さな一品を指す。これによって食べる側の口を整え、次の料理への準備をするというのがその役割だ。だが、「沁ゆうき」の箸休めは、そんな控えめな存在感に甘んじることなく、堂々たる一皿として主張してくる。

たとえば、コロッケや子蓮根の揚げ物。箸休めと呼ぶには豪快で、外側はサクッと軽く、中はほっくりとした温かさが広がる。これを前にして箸を休めるどころか、むしろ次の一口を求める手が止まらない。一方で、干したえんがわや鰻の肝焼きは、噛むほどに旨味が深まり、箸を持つ手を休ませても杯が進む。まさに「箸休め」が新たなステージを獲得している。

そして、新作として登場しながら、すでに定番化しているという「サザエの茸焼き」も見逃せない。殻の中に詰められたサザエの身と数種類の茸、さらに仕上げにトリュフオイルが垂らされる。焼き物?焚き物?いずれにせよ、その豊かな香りと味わいは、食事の流れに確かなアクセントをもたらしてくれる。

控えめに見えて実は主役級。これが「沁ゆうき」の箸休めが持つ奥深さであり、和食の新たな可能性を示すものなのだ。

2024/12/24 更新

18回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

和食の終幕 カレーという名の異端

和食のコースメニューを見ていたとき、「カレー」の二文字が目に飛び込んできた瞬間、思わず目を疑った。「和食のコースにカレーとは?」という思いが頭を駆け巡る。繊細な味わいの流れに、あの異国のスパイスが入り込むことに、一瞬、違和感を覚えたのだ。しかし、興味本位で頼んだその一皿が、あっさりと私の先入観を打ち破った。じっくりと煮込まれた牛スジが織り成す深いコクと、和食の余韻を見事に引き立てるその味わい。まさに「異端」と呼ぶにふさわしいが、同時に「これこそが〆にふさわしいカレーなのだ」と納得させる説得力を持っていた。

現在では、牛スジカレー、海老カレー、カツカレーの三種が用意されている。牛スジとカツは共通のベースを持ち、海老カレーは海老出汁の芳醇な香りが特徴的だ。それぞれが放つ個性の強さに、選択を迫られるのが常だ。先日も、牛スジにするか海老にするか悩んでいると、隣の席のお客さんも同じように決めかねている様子だった。「半分ずつにしてみませんか?」と声をかけると、快く提案に乗ってくれた。大将に頼んで「あいがけ」を作ってもらい、皿を分け合いながら楽しんだその時間は、料理の味だけでなく、人との小さな交流を味わう特別なひとときとなった。

このカレーは単なる「和食の〆」ではない。和食の枠を超え、思わぬ形で人と人を繋ぐ役割も果たしている。その奥深さと完成度に触れるたび、またこの店を訪れる理由が一つ増えるのだ。和食の伝統に挑むかのような異端の一皿。その魅力は、きっとまだまだ語り尽くせない。

2024/12/19 更新

17回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

酒器と日本酒の物語

父は酒器、母は茶器のコレクターだった。それぞれが丹念に器を集める姿は、まるで自分の中にある小さな宇宙を紡ぎ出しているようだった。その影響を受けた私は、両方の世界に憧れを抱きながらも、自然と酒器、特にぐい吞みの持つ魔力に取り込まれていった。

唐津焼。その名を聞くだけで、私の心には素朴で力強い陶肌の風合いが浮かぶ。自然の力に任せた窯変が生む偶然の模様、釉薬の流れが作る生きた表情。それらが器に宿る荒々しさと温かみを際立たせ、手に取るたびにその存在感が問いかけてくる。「私をどう使う?」と。その中でも皮鯨や朝鮮唐津は特別だ。釉薬の流れが偶然生み出す濃淡や、飴色の中に漂う白の流し掛けが、一つひとつ異なる表情で語りかけてくる。

「沁ゆうき」では、日本酒とともに供されるぐい吞みが、毎回私を驚かせ、そして魅了する。ある日のこと、作家物の朝鮮唐津のぐい吞みが、私の視界に飛び込んできた。指先で触れると、陶肌が持つわずかな凹凸が語りかける。「この器の物語を知りたいか」と。その器に酒を注ぎ、唇に運んだとき、器と酒と私の間に確かな対話が生まれた。

その日以来、私はその作家のぐい吞みを追い求めるようになった。「沁ゆうき」では、その時々の気分に合ったぐい吞みを選ぶ楽しみも格別だ。唐津焼のぐい吞みを手にしながら飲む日本酒は、ただの飲み物ではなく、器の持つ風合いや物語とともに、心に染み入る特別なひとときとなる。酒器と茶器。それぞれの器が織りなす時間の流れは、ただの道具ではなく、私にとっての旅の相棒だ。人生の喜びとは、こうした些細な出会いと、そこから生まれる物語にあるのかもしれない。

2024/12/11 更新

16回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

塩とレモンが語る光の記憶

「沁ゆうき」の大将が、料理人として最初の一歩を踏み出したのは、高知県の寿司屋だったという。その地で培われた寿司への思いは、単なる技術や形式を超えて、一貫一貫の細部に宿る魂そのものだ。寿司とは、魚の鮮度や米の炊き加減、酢の加減といった要素が織りなす絶妙な調和の結晶であり、それに注がれる情熱こそが、彼の料理の核を成しているのだろう。

最近、〆のメニューに巻物が加わっている。ネギトロやトロたくといった馴染み深い一品はもちろん、鮪の赤身が極上の時には、鉄火巻がそっと姿を見せる。素材の質が生む至福の瞬間がここにある。素材を知り尽くし、最大限に引き出すその技量は、どれだけの研鑽を積んだ証だろうか。

だが、私の心を最も奪うのは、冷たい先付として提供される一貫の寿司だ。その中でも、鰺などの光物を塩とレモンで仕立てた一品には驚嘆を禁じ得ない。塩の角を包み込むレモンの酸味が、魚の旨みを静かに際立たせる。その味わいが口の中で広がる様は、まるで光が差し込む静謐な朝の海のようである。

この塩レモン寿司を、三貫ほどの〆メニューとして供してくれたら、と密かに願うことがある。寿司という瞬間芸術の魅力に浸る時間を、少しでも長く味わいたいという欲求は、大将の生み出す芸術に対する純粋な敬意にほかならない。料理の枠を超えて、人の心に沁み入るその寿司が、次にどのような物語を紡ぐのか。その期待に胸を膨らませながら、また店を訪れたいと思うのである。

2024/12/09 更新

15回目

2024/12 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

餡子は水物にあらず? その答えを待つ日まで

和食のコースを締めくくる「水物」。その響きに、なぜか心が浮き立つのはどうしてだろうか。多くの場合、それは果物や寒天といったさっぱりとした甘味だ。食事の締めくくりにふさわしく、口の中を清め、胃袋に最後の余韻を与える存在。だが、この店の水物は一線を画している。

皿の上には塩バニラジェラートが盛られ、その周囲を鮮やかな季節の果物が彩る。そして、ひときわ存在感を放つのが「あんこや ぺ」さんの餡子である。餡子といえば、普通は和菓子の中心的存在。しかしここでは、それが果物とジェラートに寄り添う脇役のように見える。だが、一口食べればすぐに気づく。この餡子こそが、全体の調和を生む主役なのだ。

苺大福がその証明だ。甘さと酸味の絶妙な組み合わせが人々を魅了してやまないように、ここでも餡子と果物の相性は抜群だ。そして、塩の効いたジェラートがその甘さを引き立てつつ、後味を涼やかに整える。

しかし、耳にしたのは「あんこや ぺ」さんがしばらくお休みになるという知らせ。その知らせに一瞬心が揺れたが、ふと気づいた。これは「終わり」ではない。営業再開の日を楽しみに待つ時間もまた、餡子を愛する者の楽しみの一部なのだ、と。餡子は水物にもなる。その不思議な可能性を、再び味わえる日を思い描きながら、今日の余韻を胸に家路についた。

2024/12/04 更新

14回目

2024/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

毒と甲殻に怯まぬ欲求

冬の味覚といえば、ふぐと蟹だ。この二つ、いずれもただの「食材」として語るにはあまりに特異な存在だ。ふぐは猛毒を持つ魚として恐れられ、蟹もその甲殻と鋭い爪が見る者に戦慄を与える。だが、その外見や危険性を超えてなお、私たち日本人はこれらを「美味」に変える術を手にしている。それどころか、危険と隣り合わせであることすら美味しさの一部として捉えるのだから、不思議なものだ。

この店では冬になると、てっさが盛り合わせの一部として登場する。その身が醸し出すのは、見た目の軽やかさとは裏腹な旨味の深さ。他にも、唐揚げや焼きふぐという選択肢があり、いずれも職人の技が光る。そして、せこがにだ。内子と外子の繊細な味わいを酢の物に仕立てた一皿は、短い旬を存分に楽しませてくれる。

そもそも、ふぐと蟹のどちらも、誰かが「これを食べてみよう」と決意しなければ今のような料理にはならなかったはずだ。その背景には、未知を恐れず、美味しいものを追求する日本人の執念すら感じられる。私もまた、その営みに加わる一人だ。冬の夜、鍋を囲むたびに思う。「美味しいものを求める心こそ、季節が私たちに与える最大の贈り物なのだ」と。

2024/11/26 更新

13回目

2024/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

食の選択と揺らぐ決断

メインメニューを選ぶという行為は、一見すれば単純で何気ないように思える。だが、その裏には複雑な論理と、選択の妙が秘められている。まずは、基本とも言える戦略から始めよう。コース全体の構成を精密に把握し、その流れに沿う選び方だ。揚げ物が続く時は、バランスを重んじて煮魚やねぎま鍋、はりはり鍋を選ぶことで、味覚の調和を見事に整える。しかし、人間とは理屈だけでは動かないもの。欲望が心を支配する瞬間も訪れるのだ。例えば、どうしても揚げ物が食べたい日がある。コースに既に揚げ物が含まれていようと、さらにエビフライを追加し、油の快楽に浸ることを選ぶこともある。そしてもう一つの方法は、締めを意識した計画的な選択である。ご飯セットで締める予定なら、煮魚かすき焼きをメインに据え、全体の調和を計算する。とはいえ、世の中は予定通りにいかないもの。大将が「メニューにないですけど、こんなのもできますよ」と囁けば、心が揺れるのも無理はない。今日もその一言に惑わされながら、選択という名の運命の扉を前に、深く考えを巡らせているのだ。

2024/11/21 更新

12回目

2024/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥20,000~¥29,999
    / 1人

幻の一皿 ~常連の勲章~

常連の特権とは、他の客にはまだ知る由もない特別な体験を享受できることである。例えば、頻繁に訪れることで、まだ見ぬ新作メニューを最初に味わう幸運に恵まれることがある。それだけでも十分に価値ある喜びだが、さらに特別な機会は、メニュー表に載る前の試作段階の一皿に巡り合うことだ。この一皿は、未だ未完成の作品であり、完成を夢見る“暁の一滴”であるかのような、儚さを秘めている。

しかし、この特別な瞬間を単なる贅沢と捉えるだけでは、真の常連とは言えまい。常連客としての責務は、その試作に意見を述べ、より良き一皿へと導くことである。食感や香り、味のバランスをどう整えるべきか、店主やシェフとの対話の中で「食感にもう少し変化を加えてみてはどうか」等と思いを伝える。それが形を成し、完成品に少しでも自分の思いが反映されたなら、その感動は計り知れない。新たなメニューが自分の好みを宿し、さらなる愛着を持って通い続けることとなる。

とはいえ、全てがメニューに並ぶわけではない。幾度も試作を重ねながら、日の目を見ることなく消えていく“幻の一皿”も多い。しかし、それを知るのは、限られた数少ない常連だけである。その誇りは、あたかも秘密を共有する仲間であるかのような、特別な勲章として胸に刻まれるのだ。

2024/11/14 更新

11回目

2024/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

海老?に魅せられた味覚

食材としての海老が、なぜこれほどまでに人を魅了するのか。プリッとした歯応え、口の中でふんわりと広がる甘み、そしてどんな料理に姿を変えても際立つその存在感。無論、これは単なる好みの話にとどまらない。海老に秘められた力が、私の心に作用しているのではないか――そう考えざるを得ない瞬間がある。

その日もまた、まず最初に味わったのは海老芋の唐揚げだった。あたりまえだが海老の名を持ちながら、これは海老ではない。だが、もっちりとした食感と香ばしい揚げ加減がたまらなく、初めの一口から心を掴んで離さない。そして次に手が伸びたのはエビカツ。海老をミンチにした海老をつなぎに用いた純度100%のエビカツだ。揚げたての衣はサクッと軽やかに弾け、中のジューシーな旨みが口いっぱいに広がる。たっぷりのタルタルでも、ウスターソースでもどちらにも相性が良いその美味しさには無条件降伏するしかない。最後に海老カレー。スパイスの香りと海老の甘さが絶妙に絡み合い、スプーンを進めるたびに至福の時間が訪れる。

こうして考えてみると、食材の好みは味覚の記憶とともに、無意識のうちに食卓を支配している。次は何の海老料理にしようかと、また思案が続くのだ。

2024/11/06 更新

10回目

2024/11 訪問

  • 夜の点数:5.0

    • [ 料理・味5.0
    • | サービス4.5
    • | 雰囲気5.0
    • | CP5.0
    • | 酒・ドリンク5.0
    ¥15,000~¥19,999
    / 1人

お米愛の向こうにあるもの

普段、私はご飯に強いこだわりは持たない人間だ。ご飯は食卓の脇役としての存在に過ぎない。だが、このお店だけは別である。この店のご飯には、どうしても心を奪われる何かがあるのだ。とりわけ、季節の食材をふんだんに取り入れた炊き込みご飯や、予約必須の鯛めしには、食べるたびに驚かされる。

鯛めしの存在が今、表メニューから消えているのはなぜなのだろうか。店主の計算なのか、それともただの偶然か――。裏メニューとして、常連にのみ提供される特別な一品であるかのように扱われていることを考えると、何とも不思議な魅力が漂う。ましてや、普段一人で訪れる私にとって、「二人以上」というオーダーの制約は少々悩ましい。それでも、特別な日には、どうにかその壁を乗り越えて頼みたくなる一品である。

自分で炊いたご飯では決して味わえない、得体の知れない深い味わい。それがこの店のご飯には確かにある。きっとそこには、お米一粒一粒に注がれた店主の尋常ならぬ愛情が込められているのだろう。その想いがご飯の隅々にまで浸透し、私の心にまで染み入る。だからこそ、ここでだけは、私はご飯を心から「美味しい」と感じるのだ。

2024/11/03 更新

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